2007.05.01

『ブラッド・ダイヤモンド』という映画を最近見ました。レオナルド・デカプリオ主演で、アフリカのシエラレオネの紛争ダイヤモンドをテーマにしたものです。
この映画は、社会的テーマとアクション映画としてのエンターテインメント性もあって、私は個人的にはとても好きなんですが、なんと欧米のメディアを見てみると、なんとこの映画に対して、ダイヤモンド業界から猛烈な反論が起きているというのです。
主演したデカプリオも
「こんなに激しい反発に遭うとは思わなかった」
と語っています。
いったい何があったんでしょうか。
どうやら、映画内のストーリーだけでは語れないさらに深くて複雑な状況が裏にありそうです。というのが今回私がこのコラムを書こうと思ったきっかけでした。
▼紛争ダイヤとシエラレオネとその後
実は以前、この紛争ダイヤモンドについては書いたんですが、簡単に紹介します。詳しくはこちらから。
http://www.ochanoma.info/sc_diamond.html
世界で一番寿命が短い国であるシエラレオネでは1990年代、政府軍とRUFという反政府ゲリラとの間の内戦により5万人の命が失われ、200万の人が難民となりました。
RUFは同国でとれるダイヤモンドを密輸して、武器購入などのゲリラ活動の資金源としていました。このダイヤモンドがいろいろなルートを経て、指輪などのアクセサリーとして先進国で売られていたのです。
この事実がNGOの告発によって、明らかにされると、ダイヤモンド業界は紛争を手助けしていると国際社会から非難を浴びました。
1994年、ダイヤモンド業界は国際社会と連携して、紛争ダイヤモンドをなくすために「キンバリー・プロセス」という協定を結びました。この協定は、国連がバックとなり、紛争ダイヤモンドではない正規のルートから来たものにだけ取引を許すという認証制度でした。
この協定をはじめ国際的な支援もあって、2002年、シエラレオネではRUFと政府の間に停戦協定が結ばれて、現在に至っています。
▼紛争ダイヤモンドは「過去」のもの?
さて、映画の内容はというと、まだ見ていない人もいると思うのであまり詳しくは書けないんですが、背景的にはこの1999年という紛争ダイヤモンドによって内戦がひどくなっていく時代を描いています。そしてダイヤモンド業界が紛争に携わっているとして全体的に悪く描かれています。
詳しい内容はこちらから↓
http://wwws.warnerbros.co.jp/blooddiamond/
と、この映画の内容を知ったダイヤモンド業界は激しく反発しました。「ダイヤモンド業界は紛争ダイヤモンド撲滅のために、たいへんな努力をしてきた。実際紛争ダイヤモンドはほとんどなくなり、この件については解決済みだ」というのが、彼らの立場です。
この映画に先立って、ダイヤモンド業界は大規模なキャンペーンを行いました。
昨年9月、「World Diamond Council (世界ダイヤモンド会議)」という貿易組織は、10もの新聞に一斉に1ページをフルに使った広告を出しました。「キンバリー・プロセスは国連をバックにして、紛争ダイモンドを市場から追い出すために作られたものだ」というのを主に訴えたものでした。
「私たちはあの映画を見る人に、それは過去であると知ってもらいたい。あの時代からすでにいろいろなことが変わっているんです」
とWorld Diamond Councilの代表者は語っています。
私もこの映画を見たとき、はじめは正直そう思いました。もう何年も前にあった出来事を、映画ではまるで今起こっているかのように映し出します。映画を見た人は、もしかしたら、今も起こっているものと信じてしまうのではないでしょうか。
World Diamond Councilはまた、映画に「キンバリー・プロセス」と「シエラレオネではすでに内戦が終わっている」ことに触れるようにと訴えてきました。実際、映画の最後には、数秒ほどその二つについては表示されていました。(監督は業界からの圧力が理由ではないと語っています)
かつて「6個のうち1個は紛争ダイヤモンドだ」といわれたときから、現在は1%以下にまで紛争ダイヤの取引は減少しています。この数字自体については、ダイモンド業界も映画監督も国際NGOもみな同意している数です。そしてシエラレオネでは内戦が終わったことも確かです。
ということで、紛争ダイヤモンドのことは、映画の内容とは関係なく、もう「解決済み」ということでいいのでしょうか。
2007.05.11

▼紛争ダイヤモンドはまだ生きている
Global WitnessやAmnesty Internationalといった国際人権NGOは、紛争ダイヤモンドはまだ続いていると指摘しています。
まずシエラレオネでは、認知されている限りでは、紛争ダイヤモンドの取引はなくなっているといわれています。しかし、周辺諸国ではまだ続いているようです。
そもそも紛争ダイヤモンドに関係する国は、シエラレオネをはじめ、アンゴラ、コンゴ民主共和国、リベリアなどがあります。これらの地域の紛争で死亡した人々の数は、370万人にも及ぶとされています。
このうち、アンゴラとシエラレオネでは紛争が終結しましたが、コンゴではまだ紛争ダイヤの問題は解決していません。
20万人の人が紛争でなくなり、何百人という人が難民生活を余儀なくされているリベリアでも紛争ダイヤの取引は続いているそうです。
(ただ、国連の今年4月の報告によると、今まで一切のダイヤ禁輸状態だったリベリアは、禁輸が解除になり、キンバリー・プロセスに参加することになりました。これはリベリアの情勢がよくなっているという兆しで、喜ぶべきニュースです。しかしこれから認証制度によって、民間の売買の中に規制が託されたということなので、完全に違法取引がなくなったわけでありません)
また新たな密輸ルートも生まれています。キンバリー・プロセスにも関わらず、武力勢力の支配下にあるコートジボアール北部地域から産出されたダイヤはガーナやジンバブエから密輸され、南アフリカとベルギーの合法的な市場へと紛れ込んでいるそうです。国連の報告によれば、その額毎年900万ドルになるといいます。
またGlobal Witnessでは「たとえ違法取引のパーセンテージが小さくても破壊を招く」と警告します。紛争ダイヤの取引がたとえ1%以下としても、その取引によって得られる利益は莫大なものです。それは映画の中でたった1粒のダイヤが、人々と国の運命を変えたことでもわかります。
そして紛争が終わっても、それで終わりではありません。紛争が終結したシエラレオネでは、10年あまりにわたる内戦で5万人以上の人びとが殺害され、200万人以上の人が家を追われました。また、何千もの人々が手足を切断され、強かんされ、拷問されました。紛争によって、国内のインフラも破壊されました。今後は、難民の人々の今後の住居、心のケアや、インフラの復興などもしていかなければなりません。
戦争後の復興がいかに大変なものであるかは、イラク戦争をはじめ多くの先例が教えてくれています。
▼守られていない認証制度
Amnesty Internationalは別の観点から、現在のキンバリー・プロセスの問題点を指摘しています。協定ができてから3年になりますが、ダイヤ売買の末端である小売店において、認証制度があまり履行されていないといいます。
このキンバリー・プロセスにおいては、小売店の販売に対しても、ガイドラインを定めています。
各小売店は紛争ダイヤモンドについてどのようなポリシーを持っているかのパンフレットを作り、また各ダイヤモンドについて紛争ダイヤモンドではないという証明書を出すように、という内容です。
この内容は私たちの消費活動に直接関わることですから、とても大切です。
Global WitnessとAmnesty Internationalは今年2月、アメリカとイギリスにおいて、店頭の取り組み具合について調査を行いました。
その結果は驚くべきものでした。イギリスでは調査した店舗のうち、紛争ダイヤに対するポリシーについて書かれたパンフレットを配っていたのはわずか18%。そして22%の店では、何も対策をとっていませんでした。
そして日本でも3月に同様の調査が、行われましたが、その結果はイギリス、アメリカに比べ、さらに惨憺たるものでした。
銀座の宝飾店スタッフ100人と、53社に対してアンケートを実施したのですが、以下のような結果でした。
・100人中42人のスタッフが「紛争ダイヤモンド」について知っていると答えたが、キンバリー・プロセスについて知っていたのは23人
・ダイヤモンドを仕入れる際にKPCS認証を確認していると答えた販売スタッフは100人中11人
・86%の店ではダイヤモンドの産地(生産国)を把握していない
・ダイヤモンドを購入する際に「紛争ダイヤモンド」ではないことを保証する証明書を発行していると答えた販売スタッフは100人中4人いたが、実際に証明書を見せたのは2人
日本はアメリカ次ぐ世界有数のダイヤモンド消費国。日本人の消費が紛争ダイヤに関係するアフリカの国々の運命を握っているかもしれないのです。
▼紛争ダイヤを本当に止めるのは○○次第
監督のEdward Zwickさんは、紛争ダイヤモンドの数は減ったものの、認証制度のシステムはまだ完全なものとはいえないと語ります。
「私が観客のみなさんの頭の中に作り出したいのは『気づき』です。ダイヤモンドを買うには、こうしたいろいろな情報を得てからでなくてはいけません。この映画を見た後に、人々はダイヤを買うときに、それが紛争ダイヤではないかを尋ねる責任があると感じるようになるでしょう」
つまり紛争ダイヤモンドの問題はまだまだ続いていて、これからも私たちは監視の目を強めていかなければならないということです。そしてもし、ダイヤモンドを買う機会があれば、必ず認証を得ているかどうかお店に聞いてみてくださいね。
最後に、Global Witness のSusie Sandersさんはこう話します。
「みなさんにはダイヤモンドのお店に圧力をかけるのを手伝ってほしいと思います。そうすれば今度は小売店がサプライヤーに圧力をかけて、そして紛争ダイヤをなくしていくことができます」
「ダイヤモンドはお金をかけるものかもしれません。でも、人の命までかけるべきではありません」
【参考】
紛争ダイヤモンドはまだ消えない(アムネスティー・インターナショナル・ジャパン)
日本国内のダイヤモンド業界アンケートの結果報告書(アムネスティー・インターナショナル・ジャパン)
Global Witness/ Amnesty International US Diamond Retail Survey 2007(Global Witness)
Blood Diamonds: New call on diamond industry to clean up diamond trade(Global Witness)
Blood Diamond Action - brought to you by Global Witness and Amnesty International
Director attacks diamond campaign(BBC NEWS)
Industry Braces for Blowback from 'Blood Diamond'(NPR NEWS)
Rough Trade: Diamond Industry Still Funding Bloody Conflicts in Africa(The Independent)
Seven Questions: A Chat with Blood Diamond Director Ed Zwick(Foreign Policy)
The Diamond Industry creates educational campaign on conflict diamonds
リベリアからのダイヤモンド禁輸解除へ(国連情報誌SUN)
この改行は必要→
デカプリオもびっくりのダイヤ業界猛反発