2003/01/29
それは運命!?
・血液型がA型なら優柔不断である
・気圧が下がっているから明日は雨になる
・緯度20度以下に住んでいる人々は貧しい
この中でどれが当たっていると思いますか? もちろんどれも100%の確率じゃありません。けれど一番確率が高いのはおそらく3番目でしょう。
地理と貧困というのは密接な関係にあります。ズバリ結論から言いましょう。
熱帯や内陸にいる人たちは貧しい─。
▼定理その1:熱帯=貧困
熱帯に住む人々は貧しい─。
熱帯に住む人々の所得は、温帯に比べて3分の1。熱帯に住む人の平均寿命は温帯に比べ7歳も短い。いわゆる「産業国」にランクされている24カ国の中に、北緯回帰線と南緯回帰線(南北緯23度37分)の間に位置する熱帯の国はひとつもない(オーストラリアの北部とアメリカ領であるハワイは除く)。経済上位30の国・地域の中には、熱帯でもブルネイ、香港、シンガポールが入っているものの、どの国も海洋貿易に適したところばかり。
▼定理その2:内陸=貧困
内陸に住む人も貧しい─。
統計では、海から内陸に100km以上離れた国の経済は、100km以内の国に比べて成長が0.6%遅いという。
陸路で運ぶのはコストがかかる。船で7km運ぶコストは、陸路1km分に等しい。途上国の場合、輸出する商品は主に原材料でかさばるから、ゆっくりでも一度にたくさんを輸送できる船が実用的。しかし、内陸国は海洋国に比べ50%も多く輸送にお金を費やしている。だから内陸に位置する国は、世界のマーケットから隔離されてしまう。
内陸国が海を使うとき、隣国を抜けていかなければならない。しかし、もし隣国と仲が悪かったら─。 近隣諸国との政治や経済関係が海へのアクセスに大きな影響を与える。
例えば、中東の内陸国ヨルダンは、地中海に出るために、イスラエルかシリア、レバノンといった、今とっても政治的にホットな地域の国境を越えなければならないので大変だ。逆に、南米の内陸国パラグアイは1990年中頃にできた南米の経済共同体「メルコスール」のおかげで、海へのアクセスが便利になった。
▼技術発展を阻む地理
技術開発という面からも、地理に囚われた国は不利な状況にある。
第1に、技術は経済を成長させる大きなエネルギー。先進国のつくった技術が途上国へ移っていくのが理想だが、残念ながらすべての技術が途上国でも利用可能というわけではない。
その中でも途上国の中心の産業である農業を例にとってみよう。農業技術はその土地の土や気候に基づいて研究されているため、他の地域へ移すことは難しい。温帯の作物は熱帯では育たない。
先進国は途上国より農業開発に5倍の投資をしている。北半球先進国の温帯で開発された農業作物は、アルゼンチン、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカといった南半球でも栽培できた。しかし熱帯の国々が生産するコーヒー、ココア、サトウキビ、キャッサバ(タピオカの木)などは、原始的な技術に頼っているところが多い。
第2に、技術の発展には、それを支える市場がなくてはならない。技術はひとりでには発展しない。技術開発には初期投資がかかるが、その技術を使った商品が大量に売れることで利益が上がり、さらなる技術向上に再投資ができる。だから技術開発には、商品を購入できるたくさんの裕福な人々が必要となる。
ところが農業技術が劣り生産力が低いと、大きな都市人口を支えることができない。人口が少ない上に、みな貧しい。これでは技術が発展していかない。
第3に、内陸に住む人々は、なけなしの生産物をマーケットに売りに出そうにも、輸送にコストがかかる。だから、ますます技術開発にお金が回せなくなる。
▼コレラよりダイエット
熱帯地方では国の社会経済を脅かすほど、疫病が蔓延している。医療に関する技術・研究も、地理に阻まれているからだ。
まず、熱帯病の多くは蚊によって伝染する。熱帯は四季がないから、蚊は一年中「元気」。
疫病に苦しむ国は貧しく、治療や予防の研究に投資が集まらない。薬剤会社にとって、先進国に需要のあるダイエットやハゲを治す薬を開発した方が利益になるからだ。
数多くの熱帯病の内、現在、ワクチンによって治療可能なのは、黄熱病のみ。自らも感染しながら、命を掛けて黄熱病を研究した野口英世(1876−1928)の功績を改めて讃えたい。
こうした途上国を襲う疫病は、社会経済の発展にも暗い影を投げかけている。
ペルーでは1991年に大発生したコレラにより、水産業は輸出を一時的に禁じられ、8億ドルもの打撃を受けた。1994年にはインドのスラット地方でペストが大流行し、50万人が移住を余儀なくされた。産業界にも深刻な影響を与え、医療、社会、経済的な損失は合わせて20億ドルにものぼったと推定されている。
このように地理と貧困の悪循環はどこまでも連鎖していく…。
神以外に地理を変えることはできない。
果たしてこれは、変えることのできない運命なのだろうか?
2003/02/07
グローバリゼーションのススメ
▼地理と貧困を結びつけるのはタブー!?
戦後から、地理と貧困を関連付けた研究はされてきた。ところが、途上国から猛烈な非難を浴びることになる。「そこに住んでいる限り貧しい」と、まるで途上国の貧困を運命のように決めつけている、と思われたからである。「途上国を侮辱している」「人種差別だ」という声まで上がった。こうした非難を受けて、この種の研究はタブー視されるようになった。
しかし1990年代になって流れが変わった。国連は途上国援助専門の機関をつくってプロジェクトを行ってきた。先進国も個別に途上国援助を続けてきた。それなのに、地理の運命に悩む国々では、貧困が改善されないばかりか悪化していったからだ。
今まで途上国開発において、何よりも重要視されてきたのが「市場経済」というスローガンだった。経済危機に苦しむ国々を救うことが使命のIMF(国際通貨基金)は、途上国にお金を貸すとき必ず、「政府は経済に介入するのを止め、民営化を推し進め、世界に市場を開放し、政府支出を抑えなさい」という条件を厳しく付けた。
彼らのアドバイスが世界共通の特効薬なら、モザンビークも今ごろ台湾・香港・シンガポールのようになっていたはずである。
だが現実は違う。貧富の差は広まるばかり。1820年、西ヨーロッパとアフリカの経済格差は2.9倍だったのが、1992年には13.2倍にまで広がった。世界の富の上位20%を握る人々は、下位20%の人々より74倍もの富を持っている(1997年)。1960年には30倍だったのに。
世界銀行やIMFが処方した経済発展の特効薬は、途上国が直面している他のもっと大きな問題を計算に入れていなかった。多くの国が、地理のせいで、農業生産や市場へのアクセスが拒まれ、疫病に苦しんでいる。そうした国は、ただ食糧の援助を受けたり、学校や病院を建ててもらったりしても、長期的には、自分たちで食べていけるだけの経済をつくることは難しい。
地理に囚われた貧困国を救うには、地理に結びつけた解決策が必要だ。もっと援助のお金を(1)輸送インフラ、(2)農業・医療技術、そして(3)近隣諸国との経済統合に向けるべきである。
▼グローバリゼーションのススメ
今の世界地図上では「統合」と「分裂」の2つの流れが同時に進行している。
統合組の最先端を行くのはEU。国と国の間の物、お金、人の移動を自由にした。今やユーロという共通の貨幣を持ち、政治的にもEUとしてまとまり、世界で大きな発言権を持つようになった。
一方、「民族自決」の名の下にどんどん新しい国家が生まれている。分裂組のほとんどは途上国だ。しかし彼らは、独立後も依然として貧困に苦しんでいる。
独立をすると国境ができる。「壁」ができて、物・金・人の移動が制限されてしまう。例えば、旧ソビエト連邦だった多くの小国は、ソ連崩壊により独立をしたが、海を失い内陸に閉じ込められてしまった。その多くはソ連時代よりも経済が悪化してしまった。
チェチェンの独立運動は人権的な立場から見れば正しいかもしれない。けれども、もし独立を達成できたとしても、内陸に閉じ込められてしまって、市場へのアクセス、つまりは経済の根本を失ってしまう。民族自決の前に、パンを失ってしまっては元も子もない。
グローバリゼーションは途上国の貧困と不平等をつくり出している──と、たびたび批判される。しかし不平等が生まれるのは、グローバリゼーションがはびこっているからではなく、逆に、グローバリゼーションが欠けているからだ。経済発展に必要な物資や投資や技術の移動が、内陸や熱帯に位置する途上国ほど欠けているからだ。一部の国々が世界銀行やIMFを支配し、グローバリゼーションを牛耳っているからだ。
要するに、地理に囚われた国を救うことができるのは、グローバリゼーションなのだ。
◎References:
・Hausmann, Ricardo. (2001 Jan/Feb) Prisoners of Geography. [Foreign Policy] v:122, p:45.
・Landes, Devid. (1999) The wealth and poverty of nations: Why some are rich
and some so poor. (New York: W.W. Norton &
Company).
・Passell, Peter. (1997 Jun 12) Capitalism doesn’t always take. Location, it seems, is destiny. [New York Times] p:D2.
・Sachs, Jeffrey. (2000 Autumn) The geography of economic development. [Naval War College Review] v:53, i:43, p:92.
この改行は必要→
人に地理は変えられない。とすれば運命なのか