2001/07/17
▼グローバリゼーションの申し子
今や「寿司」は国境を越え、世界の料理となっている。ここサンフランシスコでも数えきれないくらいの寿司レストランがある。日本人が板前の正当(?)なお店からに西洋風にアレンジしてあるモダンなレストラン、中国人や韓国人が経営する妙に「日本」を意識した(ちょっと勘違いした^^;)デザインのものまで。モールやメジャーリーグ野球場のファーストフードやスーパーマーケットにも寿司はすっかり定番メニュー。
寿司のネタの中で代表的なのはやはりマグロ。水揚げから輸出、加工、消費まで、世界を巻き込んだマグロ市場なしに、今日の寿司産業の世界的発展はありえない。
国際的な水揚げ競争、国際的な環境規制、規制に対応した新しい労働市場、世紀に渡る伝統技術と最新のハイテクの共存、文化の浸透...
寿司は「グローバリゼーション」の典型と言っても過言ではない。
▼West Meets
East
寿司はアメリカで人気を博した後、世界に急速に広がっていった。しかしながら、最初から寿司がすんなり受け入れられたわけではない。生のものを食べるのに抵抗があったし、「東洋」からの文化を受け入れること自体にも抵抗を感じていたのかもしれない。
文化は「西」から「東」に伝わるもの、という意識があった。
ジェームス・ディーンに、ベースボール、コカコーラ、ディズニー。確かにアメリカ文化の世界に与えた影響は大きい。
しかし、「東」から「西」へも文化は伝わった。
黒沢明の『七人の侍』、映画スターウォーズに取り入れられた「禅」の考え、ダースベーダーの鎧、NINTENDO、PLAYSTATION、ポケモン...
これら日本の「文化」はアメリカだけでなく世界中へ広がった。その意味で、寿司とは、グローバリゼーションの中で「東」が「西」に伝えた文化のひとつといえよう。
▼「ブーム」から「ポピュラー」へ
1960年代のアメリカにおいて、寿司を食べることは、階級と教育ステータスの高さを示すひとつのサインでしかなかった。
それが、70年代になると、ヘルシー志向ブームが芽生えたアメリカでは、米、魚、野菜などを食べることが注目され始めた。これに日本の経済発展とともにスポットを当てられ始めた日本文化の「美学的センス」に対する人気とあいまって、寿司は急速に注目を集めるようになった。
今ではすっかり市民権を得た寿司。もはや、階級のステータスを示すバロメータでもヘルシーとか「クール」な食べ物でもなく、寿司は「ポピュラー」になった。
1970年代以降、200海里水域設定など国際的な漁業制限が厳しくなり、やたらに外洋でマグロを獲ることができなくなった。そこで、日本は海外からのマグロ供給への道を探り始めることになる。
日本のマグロ輸入量は84年から93年の10年間に5.5倍も増えた。マグロ一本は数百万円で取り引きされるほどの金の延べ棒。日本のマグロ輸入増大は世界に赤いゴールドラッシュをもたらした。
90年代に入り、日本が長い経済不況に陥るにつれ、世界の寿司産業は衰えるかに見えた。ところが、アメリカの寿司産業はいまだ健在である。アメリカが好景気というのもある。しかし、寿司の味と産業がローカルのレベルですっかり定着したことも大きな理由だ。
今や、寿司はひとつの世界的な「ブランド」として、地球を回りつづけている。
▼世界の台所
東京築地市場、午前5時。6万のトレーダーたちの戦いが始まる。わずか12時間の間に約450種、2700万トンもの海産物が、東京の人々の食卓へ向けて取り引きされる。まさに「東京の台所」だ。
しかし、築地は東京のためだけにあるのではない。築地は世界最大の海産物市場。北米最大のニューヨークのフルトン・マーケットと比べても、年間取引額で6倍、トン計算で7倍も多く商品を流通している。
▼ここにも世界の"Made in
Japan"
スシのネタになる食材は世界中から集まってくる。ただ輸入するだけではなく、日本は技術・人材を積極的に援助をしてきた。
たとえば、日本はスペインから多くのマグロを輸入している。漁場と働く人々こそスペイン人だが、そのほかはみなグローバリゼーションの波に乗ってきた技術と資本。日本の会社から資本援助を受け、船も網も日本製。餌づけスケジュール、重量計、市場価格などをシュミレーションするコンピューターも日本の最新技術と漁業科学によって支えられている。
僕のスペイン人の友人は、リゾート地で有名な地中海のカナリア諸島に住んでいるが、そこにも寿司レストランはいくつかあるという。(ちなみにフラメンコ教室ではスペイン人か日本人しかいないという
^^;)
ツアリズムに詳しい日本人の友人の話によると、日本は寿司、刺身用のタコの80%以上をこのカナリア諸島から輸入しているという。また、たこ壺を使った漁法も日本から入ってきたらしい。
▼総指令本部・ツキジ
こうして水揚げされたマグロなどの海産物は、冷凍されて築地市場にジャンボジェットで運ばれる。オークション(競り)に買ったバイヤーは瞬時に携帯電話で、シェフに何を買い入れたか報告する。この間、世界中の漁業関係者にはファックスで、今朝行なわれた競りのリポートが送られ、その代わり、築地は世界中の漁場から送られたマグロの水揚げレポートであふれかえる。
築地は世界の海産物マーケットの指令塔とでもいった具合だ。築地のオークションシステムは世界中の漁師、会社、工場、レストランを取り巻く海産物経済のネットワークを統合しているのだ。
築地は漁業取り引きにおける「文化」をもコントロールしている。マグロには「カタ」と呼ばれる理想的な標準を満たしていることが望ましい。色、模様、形、脂肪、などさまざまな基準がすべて日本人によって設定されている。
魚が長持ちするよう、それを包む特別な紙も日本製。世界どこへ行っても、マグロを包むこの紙は日本から取り寄せなければならない。
マグロ一本の体積のうち、半分は使われずに捨てられる。それにも関わらず、海外からは一本丸々が高い飛行機料金をかけて輸送されてくる。切らずにしておいた方が腐りにくいということもあるが、「かたち」のほうがもっと大事なのだ。日本人のほうがマグロをさばく技術が高い、とは世界の周知。だれも危険を冒してまで、切り身の状態で日本に送ろうとする者はいない。
築地はスシという名の日本の文化的資源を、地球規模で扱う総指令本部である。
情報をコントロールしつつ、世界のマグロ取り引きの需要と供給を独占する。スシ産業に関わっている限り、世界のだれもが日本人の定めた「暗黙の決まり」に従わなければならないのだ。
◎References:
Kalterheuser,
Skip. (1999, Winter). On the road: Something fishy. Forbes.
p.92
Bestor, Theodore. C. (2000, Nov/Dec). How sushi went global.
Foreign Policy. p.54
この改行は必要→
アメリカのニューイングランドやスペインで獲れた200キロのマグロは