2003/12/22
日本の食卓が左右するアジアの運命
▼世界の3分の1を消費する日本人
寿司のネタから始まり、エビ天ぷら、エビフライ、エビピラフ、エビグラタン、エビピラフ……。エビなしに、日本の食卓はありえない。
こんなにいろんなおいしいものが食べられてなんと幸せな日本人^0^
日本人はホントにエビが好きらしい。
日本人一人当たり、一年に平均80匹のエビを食べる。
世界のエビの3分の1を食べてしまう。
過去20年間に消費量は3倍に増えている。
でもこんなにたくさんのエビ、どこでとれるのか。
98年の時点で、日本のエビの自給率は11%。ほとんどは海外からの輸入。タイ、中国、インドネシア、マレーシアなど、主にアジアからやってくる。
たくさんとれる国があって、たくさん食べる国があってもいいじゃない、と思うかもしれないけれど、そう簡単な話ではないようだ。
エビが多くとれる国では、いろいろな問題が起きている。
▼アジアを食い尽くすトロール船
たとえば、エビをトロール船でとる方法がある。この方法なら一度にたくさんのエビをとることができる。が、ほかの魚もいっしょにとってしまう。そしてたいていの場合、ほかの魚は捨てられてしまう。
日本は80年以降、国内のエビ需要に応えるために、このトロール漁法を使って国内のエビをとりまくった。しかし国内のエビはとり過ぎで少なくなってしまった。そこで今度は、アジアへ向かったが、そこでもとり過ぎで激減してしまった。
それまで伝統的な手法で細々とエビをとってきた漁師は、トロール船のために仕事を失った。トロール漁法では関係ない魚もとってしまうから、ほかの漁師も圧迫された。
エビだけでなく、ほかの魚資源の枯渇も招いているのだ。
▼マングローブを破滅に導いたエビの養殖
海ではエビがとれにくくなってしまった。そこで注目を浴びたのが養殖。
しかし養殖場をつくるためには、大量のマングローブの林を切り開かなければならなかった。
マングローブとは、海水と淡水が入り混じる水の中に根を生る木で、その根がちょうどいい魚のすみかとなるので、多様な生物を育てる貴重な資源として、世界的に注目されている。
地域の住民は、もともとエビをマングローブの周りに放流し、ある意味「養殖」してきた。彼らは伝統的にエビとマングローブの共生を保ってきたのだ。
それなのに大規模な養殖のためにマングローブは伐採され、地域の生態系や人々の生活様式は崩壊してしまった。
マレーシアのペナンで漁師福祉団体のリーダーをしているハジ・サイディン・フセイン(70)さんはこう語る。
「マングローブの森は自分の子供たちと同じ。自分の子供を世話するように、マングローブの森を守り、世話し、育てていかなければならない。だから、この大切な資源を破壊しようとするいかなる力に対しても抵抗していくつもりだ」
2003/12/28
ヒットエンドランのエビ養殖
▼汚染と病気との闘い
養殖のためには、多くの人工飼料が使われる。が、食べ残されたエサやふんなどにより水が汚れる。だからポンプ使って大量の淡水と交換しなければならない。
しかし、よっぽどきちんとした施設でなければ、汚れた水は垂れ流し状態。こうして周辺の運河や川が汚染される。
一方、池の水は塩分を含んでいるから、それが土壌に染み込んでいき、塩害を引き起こす。
こうした水質の悪化はエビの病気を引き起こす。最初は十分な生産をあげることができるが、数年過ぎ、池が汚染されてくると、水質の管理は難しくなり、病気の発生率は高くなっていく。
実際、80年代から、東南・南アジアのすべてのエビ養殖生産国で、ウィルス性の病気が数年おきに発生している。
▼養殖場の寿命は5〜10年!?
そうこうしているに、生産性は低下し、病気でエビは死んでゆく。その結果は惨たんたるもの……。
インドネシアでは、過去数十年でエビ養殖場の数は半減し、7割の養殖場が使われなくなった。
多くの場合、養殖池はつくられてから5〜10年で放棄されるという。外部の資本が養殖が行う場合、1〜2年で元手をとればOK。病気が発生すれば、池を放棄し、新たな場所を探す。
こうした「焼畑式」というか「ヒット・エンド・ラン式」の養殖の結果、アジアでは85〜95年の間に15万ヘクタールの池が放棄された。
捨てられた池はどうなるか? 養殖池のあとの土壌は硫酸性になるため、農地への転用は難しいという。跡地がどう使われているかの詳しい調査はほとんどされていないが、ほったらかしにされていることが多いという。
▼誰に利益をもたらしたか
こんな環境リスクを冒してまで、だれが喜ぶのか?
ヒット・エンド・ランに成功した投資家?
それともエビを食べてる日本人?
中小規模のエビ養殖生産者が多いタイでは、稲作の生産性が低い地域やマングローブ林地域において、現地の人の所得や就業率の向上に貢献しているというプラスの報告もある。
が、他の国では、エビ養殖の多くが外部資本によるもので、地元の人々の雇用機会はほとんどない。247ヘクタールあれば、稲作では50人雇えるのに、エビ養殖では5人しか働けない。
そもそも養殖によってエビを人工に無限に生産できるという先入観は捨てた方がいい。育てるためにはエサが必要。1キロのエビを育てるためには、5キロの魚を海からエサ用にとってこなければならない。私たちはエビを食べるとき、5倍の魚を食べていることになるのだ。
▼日本の食卓から
グローバリゼーションが進む中、食べ物を外国からの輸入に頼るなんて当たり前のことだと思っているかもしれない。だが、船や飛行機で運ばれてくるということは、それだけ保存や輸送のためにエネルギーを消費していることになる。
養殖ではなく、直接海でとられたエビであっても、トロール船を動かすために、エビ1トン当たり10トンの石油が必要になるという。輸送や保存まで含めたら、もっと多くのエネルギーを使うだろう。
生産者から消費者までの距離が遠くなればなるほど、それがどこで、だれによって、どうやってつくられたかについて、知ることが難しくなっていく。たとえ、それが輸出する国の環境や自分の健康に悪いものだったとしても。
インド東海岸のクルー村のある住民は「エビを食べる日本人は養殖する地域でどんな問題が起きているのか知ってほしい」と願う。
世界はつながっている。「風が吹けば桶屋がもうかる」のとおり、私たちがエビをたらふく食べることが、めぐりめぐってアジアの人々の運命を左右している。
2003/01/03
じゃあ、どうしよう?
▼環境破壊を「輸出」する先進国
食卓の上のエビから、発展途上国と先進国の経済格差が見えてくる。
途上国は豊かになりたい。外貨がほしい。どうにかして自国の生産物を外国に売らなければならないと思っている。
頼みの綱は農業や漁業といった第一次産業。多くの途上国は一つの作物を集中的に生産している(これをモノカルチャーという)。コーヒーや綿花、以前書いたバナナのプランテーションというのもそうだ。
→『バナナ戦争』
http://www.ochanoma.info/sc_bananawar.html
こうした集中的な大規模生産は、途上国自身ではとうていできない。たいてい海外からの助け(投資)が必要となる。そこで世界銀行や、各国のODAや企業、そのほかの投資家が登場する。日本もアジアにおいて、ODAやアジア開発銀行を通して「大活躍」している。
エビのほとんどは先進国で消費されている。日本、米国、EUで世界の消費の90%を占めている。もちろん日本がトップだ。
先進国はエビがほしい。途上国はお金がほしい。地元産業の振興につながり、住民の生活は向上すると信じ、途上国の政府も補助金を出す。マングローブは材木にして売れるし一石二鳥。
みんなが利益を得られるはず……。
先進国は圧倒的な経済力を武器に、安い単価でエビを大量に購入した。アジアのエビ養殖者は、先進国の投資に支えられているので、どんなに環境を犠牲にしても生産を続けた。先進国から借金している途上国にとって、自らの意思でやめることは不可能なのだ。そんな勝手な行動をとれば、借金を返せないだけでなく、次に融資を受けられなくなるから。
先進国はこうして環境破壊を「輸出」してきた。
インドネシア環境フォーラム(WALHI)のラジャ・シレガル氏は「世界銀行やアジア開発銀行はマングローブ破壊を止めるために、エビ養殖支援をやめるべきだ」と指摘する。
▼一体だれの責任なのか?
結果、ほとんどの地域でエビの養殖は大失敗に終わった。
養殖の経営そのものだけでなく、マングローブ林を破壊し、水質と土壌を汚染し、地域住民の生活様式と健康に悪影響を与えた。
一体だれの責任なのか?
マングローブを伐採する人か、資金提供する世界銀行や各国政府や外国企業か、それを後押しする途上国政府か、はたまた年間80匹のエビを食べる日本人か。
犯人探しは簡単かもしれないが、だれか一人に責任をなすりつけたり、責任の順番をつけたりすることは、問題解決にはあまり役に立たないだろう。だれも悪意があってやったわけではない(と思う)のだから。
▼じゃあ、エビを食べるのをやめようか
それでは、どうこの問題を解決するか。
▽マングローブの植林をしようか。そのために基金を設立して途上国に援助しようか。でも、マングローブ林の破壊のスピードを弱めるくらいにしか役に立たないだろう。
▽じゃあ、その国のエビの養殖をやめようか。でも、一つの国でやめても、ほかの国に移るだけだろう。
▽じゃあ、エビを食べるのをやめようか。でもほかの人が食べたら意味ないし。
もっと抜本的な政策が必要だ。
▽途上国は小数の産業に頼り過ぎている。そのほとんどが農産物だが、世界中の途上国が同じようなものを作っていては、余り過ぎて価格が下がってしまう。先進国にとってはうれしい話だが、途上国にとっては死活問題。
だから、もっと産業を多様化させなければならないし、また環境にも配慮したものでなければならない。
先進国も、こうした方向に援助する必要がある。最近では世界銀行も、今までの失敗の経験から、途上国の産業の多様化と環境や経済自立に配慮したプロジェクトを行うようになってきた。
▽環境破壊に関する国際貿易上のルールもあったほうがいい。いくら企業の社会的責任が大切といわれる今日であっても、企業にとって利益は至上課題。しかし法律や規制があれば、企業もその枠組みの中で利益を生み出すために、経営方針を変えていくだろう。
自由貿易を推進するWTO(世界貿易機構)でも、環境や人権に関する議題が話し合われるようになってきている。
▽エビ養殖における環境問題でよく知られているのがマングローブ林の破壊。これに対して最近提唱されているのが、伝統的な養殖方法を参考にした、マングローブ林業とエビ養殖業を同時に行う「結合型養殖(アクア・シルビカルチャー)」だ。
残念ながら、これは技術的な問題と、住民が現金収入のためにマングローブを早くに伐採してしまうという社会経済的な問題があり、実用化の見通しはついていないらしい。
▽また、紛争ダイヤモンドや児童労働チョコレートに対してつくられた認証制度を、エビにも広げようという動きがある。持続可能な養殖で生産されたエビにのみエコラベルを付けるというものだ。FAO(国連食糧農業機関)も「エコラベル支援の可能性はある」としている。
→『紛争ダイヤモンド』
http://www.ochanoma.info/sc_diamond.html
→『奴隷チョコレート』
http://www.ochanoma.info/sc_choco.html
▽「エコラベル」とはいかないが、環境と人権に配慮した「フェアトレード」により生産・取引された「エコシュリンプ」というものがある。私の知る限り、『オルタートレード・ジャパン』を通して購入することができる。
まだまだ市場は小さいが、こうした動きがもっと広がってくれればと願っている。
(エコシュリンプに関する詳しい情報と購入方法はこちら↓)
→『オルタートレード・ジャパン』
http://www.altertrade.co.jp/index-j.htm
☆
エビを食べることを控えるその行動そのものは影響力がないかもしれない。しかし、その根底にある意識改革こそが、変化をもたらす何よりのエネルギー。
そしてこの意識改革は、世界の3分の1のエビを消費する日本人にとって義務ではないだろうか。
◆References:
・村井吉敬、『エビと日本人』(岩波新書、1988年)
・村井・鶴見編著、『エビの向こうにアジアが見える』(学陽書房、1992年)
・Mangrove Action Project
http://www.earthisland.org/map/
・FAO(国連食糧農業機関)
http://www.fao.org/
この改行は必要→
日本の食卓が変えるアジアの環境と運命