2004/04/04
▼テロより恐いもの
「あなたの健康を損なうおそれがありますので、吸いすぎに注意しましょう」
そんなこと、今や子供でも知っている。
がんや心臓病や脳卒中など25ほどの病気の原因になる。最近の研究によれば、喫煙は男性機能不全を引き起こし、女性なら乳がんになる確率が30%も上がる。
世界でタバコが原因で死亡する人は毎年490万人(日本では10万人)。
イラク戦争による死傷者よりも、他のあらゆる大気汚染が原因による死者数の合計(300万人)よりも多い。
(※[参考]テロより恐いものとは)
http://www.ochanoma.info/ta_teroyori.html
それでも世界中の多くの人は命をかけて吸い続ける。
それでもタバコ会社は世界中の人に売り続ける…
タバコが巻き込む問題は健康や嫌煙権やマナーだけではない。
地球サイズで社会的弱者、国の経済発展、環境をも黒く覆っている。
▼夢? タバコのない世界
世界は確実にタバコ撲滅へと動いている。
特に先進国ではタバコ規制の動きが急速に進む。
一箱原価30円ほどのタバコには高い税金がかけられる。
欧米では一箱700〜800円もするが、増税はさらに続きそうだ。
アメリカでは1998年のいわゆる「タバコ訴訟」により、タバコメーカー各社は、総額約25兆円というアメリカ史上最高の和解金を支払った。
現在、ニューヨーク、カリフォルニアなどいくつかの州では、レストランやバーなど公共の場での喫煙は禁止されている。
ノルウェー議会は昨年年4月、レストランやバーでの喫煙を全面禁止する全国法を世界で初めて採択した。アイルランドとオランダもこれに続きそうだ。
またアジアの小王国ブータンは、タバコを完全に禁止する最初の国になろうとしている。
昨年5月には、WHO(世界保健機構)が中心となり、「タバコ規制条約」が加盟国192カ国による全会一致で採択された。
この条約は批准後5年以内にタバコ広告を全面的に禁止することや、タバコ包装の30%以上のスペースに具体的なタバコの害を知らせる警告をつけること、などを義務付けている。
また商品名に「マイルド」や「ライト」など、健康への害が少ないとの誤解を与えるような表現を使わないようにも求めている。
今までタバコ規制に消極的だった日本も、この世界の流れを受けて先月16日にようやくこの条約に署名した。昨年5月には、受煙者を法的に守るための「健康増進法」が制定された。
タバコ禁煙地域を作ったり、歩きタバコ・ポイ捨てには罰金を科したりする自治体も出てきた。
それでも日本は他の先進国に対策が30年遅れをとっているといわれている。
「たばこ規制条約」は健康に関する初の世界的な条約。
数年前まではタバコがこの世からなくなるなんてあり得ないような話だったが、最近のこうした動きを見ていると、それも夢ではなくなるかもしれない。
▼現代のアヘン戦争
しかし、そう簡単にはいきそうにない。
タバコ会社は考えた。
先進国で売れないなら、規制の弱い他国へ売ろう。そう発展途上国がいい。
先進国の政府としても、自国民の健康は守れるし、タバコ会社をつぶすこともないし、引き続きタバコから高い税収を得ることができる。
健康的、政治的、財政的に、まさに魔法のような一石三鳥。
経済自由化の名の下に、外交力を駆使して、海外に市場を切り開く手助けをした。
WHOによれば、タバコ関連による年間死亡者数は2020年までには現在の490万人から1000万人まで増えると見込まれているが、その増加のほとんどは途上国で起こり、死亡者の70%は途上国に集中するという。
人の命が失われ悲しむのは、愛する家族や恋人だけではない。
WHOはまた、成人喫煙者の3分の1が死亡するとも見込んでいる。
大量の労働力が失われれば、国の経済発展には大きな打撃だ。
中国は今の喫煙率のままでいけば、1億人の命がタバコで失われるといわれている。
仮に死ななくとも病気になるだけでも、労働生産性は低下するし、健康対策にはお金がかかる。
アメリカのある調査では、タバコが原因のこうした国内の社会的コストはタバコ1箱当たり7.18ドルにもなるという。
さらに国連の試算によれば、タバコより毎年世界全体で2000億ドルが失われ、その半分が途上国だという。
最貧国では国民1人当たり健康衛生対策として年間1ドルしか出せないという水準を考えれば、途上国にとって、タバコ規制は健康的によりも経済的に大きな問題なのだ。
今から100年ほど前、イギリスなどの列強国は、植民地化した中国でアヘンを吸わしていたが、今のタバコをめぐる世界情勢も当時とそう変わらないのかもしれない。
2004/04/10
▼子供は金の卵
「タバコは二十歳になってから」──。
そんなこと、子供はもちろん知っている。
それでも未成年の喫煙は、日本でも海外でも大きな問題となっている。
タバコ会社にとって子供は潜在的な市場だ。小さいときからタバコに依存してくれれば、彼らは死ぬまでずっとタバコを買い続けてくれるまさに金の卵だから。
イギリスに「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社」という多国籍企業がある。ある時、「プロジェクト・シックスティーン」という内部文書が暴露された事件があった。名前から察せられるかもしれないが、16歳の子供をターゲットにいかにタバコを売るかという戦略が書かれていたが、すっぱ抜かれて大変な社会問題になった。
BATの事件はほんの氷山の一角でしかない。
今や世界的に子供が狙われているのだ。
途上国では「先進国への憧れ」が子供の喫煙につながっているという。
ケニアの医師であるポール・ワンガイ氏はこう語る。
「多くのアフリカの子供には2つの夢がある。1つは天国に行くこと。そしてもう1つはアメリカに行くこと。アメリカのタバコ会社は、このアメリカンドリームを利用し、喫煙を『豊かさ』のイメージとして結び付けてタバコの売上を伸ばそうとしている」
日本も例外ではない。日本でもやはり数年前、JT(日本タバコ)から漏洩した内部文書により、JTが子供を狙ってタバコを宣伝販売している事実が明らかになった。
2002年4月、JTは経営計画『PLAN2004』を発表。その中で、若者向けにメンソールタバコや低タールタバコの販売を強化し、自動販売機をより積極的・効果的に利用する経営方針を明確にした。
近年市場に投入されたメンソールタバコは喫煙初心者をターゲットに設計されている。メンソールには麻酔作用があるため喉が弱くてタバコが苦手な子供や女性にとっても吸いやすいからだ。
また、若者向けのイベント会場やスポーツを利用してタバコの宣伝をしたり、高校の近くに自動販売機を集中的に配置したり、タバコのポスターを子供の目の高さに合わせて貼ったりしている。
もはや未成年喫煙問題は「家庭のしつけ」の問題にとどまらない。
▼女性は金の卵を産むニワトリ
「妊婦はタバコを控えましょう」──。
そんなことも誰でも知っている。
タバコに狙われている子供たちを生むのは、他ならぬ女性だ。だから、女性の喫煙は国の将来も含めた重大な問題。それでも、特に日本などアジアの国々では、若い女性の間で喫煙者が増えている。
子供が金の卵なら、女性はその金の卵を産むニワトリ。
日本や韓国ではもともと文化的にタバコを吸う女性は少なかった。現在でも日本の禁煙者の割合は、男性50%に対して、女性は10%で、世界的に見ても少ない。
ところが逆に言えば、タバコ会社にとって、女性は新たなお得意様。
たとえばアメリカは新たな市場開拓を狙って、日本、韓国はじめアジア各国を中心にタバコ市場を開放するように政治的圧力をかけた。その結果、現在日本ではアメリカのタバコが簡単に手に入るようになった。
アメリカは1920年代からタバコ広告に女性のイメージを取り入れてきた先駆けだ。
海外と国内のタバコ会社による若者向け、女性向けのキャンペーンの功が奏してか、日本の男性の喫煙率は過去30年間で約25%も減り、女性全体の喫煙率も減少傾向にあるの一方、20代の女性の喫煙率は増加傾向にある。
妊娠や出産を経験するであろう、もしくは経験済みの多くの若い女性達の4人に1人(24.3%/02年)がタバコを吸っている。
もちろんこの増加には女性の社会的地位向上というのも働いているかもしれないが、いずれにしても、若い女性が絶好のターゲットになっていることに違いない。
▼地球を燃やすタバコ
タバコは人の健康だけでなく、地球環境にも悪い。
タバコはもともとアメリカの先住民が特別な儀礼をするときにだけ、野生のニコチンの草をとってきて使ったという。使う前には葉を自然乾燥させたというが、今や全世界で喫煙されているのだから、自然乾燥じゃとても需要に追いつかない。
そこで日本(JT)などでは、重油を焚いて葉を乾燥させている。
ところが重油を燃焼させると、地球温暖化のもととなる二酸化炭素を大量に排出させてしまう。
一方、ケニア、タンザニア、マラウイ、南アフリカなど途上国にタバコを栽培させている欧米のタバコ会社はもっと「素晴らしい」方法を考えた。
重油じゃコストがかかりすぎるというので薪を燃やして乾かそうというのだ。
こちらは森林破壊の原因となる。
世界で生産されるタバコの7割は、薪を使って乾燥されたものだという。
「たかが乾かすだけなら、たいした量じゃないんでしょ?」なんてあなどってはいけない。
タバコの葉1キロ乾かすのに、薪は10キロ必要になる。世界銀行によれば、世界で伐採される木の6本に1本は、タバコを乾かすために使われている。
しかもこの「6本に1本」という数字は、紙にしたり材木にしたりと全部含めての数で、燃料用に伐採される木に限っていえば、その8割がタバコの乾燥のためだけに使われているという調査報告もある。
また、タバコは病気になりやすく栽培するのが難しい。そのため大量の農薬を使わざるをえない。先進国なら、環境のダメージを最低限にするため適量を使うのかもしれない。しかし、途上国は技術も低く、先進国では禁止されたような強い農薬が輸入されてくる。
土地は農薬に加え、単一作物の連作によって、どんどん弱まっていく。
労働者自身も、先進国資本の農場において低賃金で働かされている上に、安全管理のないまま農薬に触れ健康も害する。
それでも、途上国はノーと言えない。多額の借金を先進国に負っているし、タバコ栽培はその借金を返すための数少ない産業だから。
このような先進国と途上国の経済格差のパターンは、他のコーヒーやバナナの栽培、エビの養殖でも伺える。
(※バナナ戦争)
http://www.ochanoma.info/sc_bananawar.html
(※エビ物語)
http://www.ochanoma.info/sc_shrimp.html
▼ヘビーなタバコ問題
「タバコの煙は自分だけでなく人にも害を与えます」──。
そんなこと、誰でも知っているかもしれない。
しかし、隣の人だけじゃない。
その煙は地球の裏側にまで影響を及ぼしている。
自分たちの国の経済、女性や子供、途上国の人々、そして地球環境にまでも害を与えているのだ。
「タバコ規制条約」の批准はもうすぐとされるが、この条約には日本やアメリカなどの強い圧力を受け、拘束力が弱く、多くの規制が各国政府の裁量に任されているなど欠陥もある。
それでも今回見てきたように、タバコは一国の健康問題に収まらない国際的な問題。だから、世界が一致団結して条約を定めた意義は大きいのではないだろうか。
グロ・ハーレム・ブルントランドWHO事務局長は総会で次のように述べた。
「今日、我々は数十億人の命を救い、次世代の健康を守るために活動している。これは世界中の人々の健康にとって、歴史的な瞬間であり、健康への脅威に対し正面から闘うという国際的な意思を示すものである」
タバコの商品名から「ライト」という表現は消えるだろう。
そしてタバコを取り巻く世界の状況を見たとき、タバコ一本は決して軽くないと感じるはずだ。
◆Resources:
--伊佐山芳郎(1999)『現代タバコ戦争』岩波新書
--P.J.ヒルツ (1998)『タバコ・ウォーズ ─
米タバコ帝国の栄光と崩潰』 早川書房
--たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(通称「タバコ条約」)の和文
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/
treaty159_17.html
--World Health Assembly adopts historic Tobacco Control
Pact
↑「タバコ条約」採択後のWHOによるプレスリリース
http://www.who.int/mediacentre/releases/2003/prwha1/en/
--Global Tobacco Control
↑世界公衆衛生協会連盟(WFPHA)の1998年大会で採択された政策文書
http://www.apha.org/wfpha/tob.htm
--The Tobacco Atlas
↑途上国でのタバコ栽培と森林破壊についてのカラー図版(WHO)
http://www.who.int/entity/tobacco/en/atlas16.pdf
--タバコ追放(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/
tobacco_master.html
--女性のための禁煙チャレンジルーム(Women’s Medinavi)
http://www.e-medinavi.com/kinen/
この改行は必要→
女性・子供、途上国、地球環境を覆う現代のアヘン戦争